新年おめでとうございます
あいかわらず激寒の軽井沢で正月を迎えた。昨年の今頃はインドの南部におり、毎日カレーばかり食べて楽しく過ごしていたことを思うと、コロナ禍によってあっという間にこうなったことにあらためて衝撃を受ける。
今年は少しでもよくなってくれれば。
願いは小さく。
『拳の先』 角田光代
表紙絵でわかるようにボクシングの話。ぜんぶ読んでから、実はこの小説には前作となるものがあったと知り、あらら……。
ボクシングにはまったく興味がなく、フィリピンのパッキャオがなかなか面白いということを知っている程度だが、そんな自分にも十分楽しめる小説だった。ボクシングってとりわけストイックな印象だが、そのとおりらしい。誰もが階段を上に登っていけるわけでもなく、どんな強者にもいつか終わる時が来る。そんな当たり前のことを、おもしろく読ませてくれた。
主人公は出版社の編集者。そこにボクシング本を書きたいと接触してくる鼻持ちならない作家やら、ジムに通う子供やらのサイドストーリーも絡んでくる。タイのムエタイの話などもあり、楽しめた。
☆4.5 だけど、だけど、それ、書くならお前だろっっっっ!!!
(↑ 読んだらわかると思う・笑)
『チーム・オベリベリ』 乃南アサ
オベリベリとは現在の帯広をさすアイヌの言葉。その帯広、十勝の原野を最初に開拓した晩成社という組織があったらしく、その開拓史とも呼べる小説。
チーム・オベリベリとは、晩成社の中核を担った3人の若者のこと。その中の1人の妻(キリスト教系の女学校を出た才媛)が語り手となって小説が動いていく。3人それぞれに性格も立場も異なり、徐々に軋轢を生み、友情に変わりはなくとも組織としては瓦解していく。厳しい自然、次々と離れていく(遁走・失踪・死別)開拓者(小作農)、アイヌとの関り、などなどが物語られ、一気に読了した。こんなに分厚い本読めるかなと思ったが、面白くてまったくの杞憂だった。
厳しい自然にみんなで立ち向かっていく、という綺麗話ではない。晩成社には出資者があり、そもそも言い出しっぺはその出資者グループの家系の者だ。勧誘されて参加した農民たちは所詮小作農でしかなく、収穫がなくても年貢を納めなければならない。収穫物がなければ借りて払うことになる。そうして逃げることも帰ることもできずに農地に縛り付けられ、借金だけが膨れ上がっていく。言い出しっぺは早々に開拓地を諦めて別の土地で新たに開拓を始め一貫性がない。チームの1人(語り手の兄)は晩成社に見切りをつけて別の土地に行き、残る1人(語り手の夫)は酒に逃げ、本来の弱さ故にあっちにもこっちにも首を突っ込み(つまりは自分の足元を顧みることがない)。そんな中、語り手であるカネは黙々と神に仕え、周囲の子に学問を授け、畑に出て生きて行く。
☆5 この時代の女の強さときたらどうだよ!
今もそうかな? 笑
結局、持てる者が持たざる者をうまいことだまくらかして自分たちだけが利益を享受できるようにシステムを作ってしまう。それは今の方がわかりづらくなってはいるが、今も昔も変わらないのだなと思った。
それにしても主人公のカネさん。この時代に学があるというだけですごいのだが、結局のところは男にとってのこれ以上ない都合の良い女、でもあるわけで。良妻賢母滅私奉公みたいな。それはもちろん明治になってすぐの話だからこうなんだろうけど。本当に本当にダメな男の妻を描いた同じ時代の北海道を舞台とする『地の果てから』のほうがすがすがしい読後感だったなと思う。
今年は昨年よりも読書をする年にしたいと思う年の初め。
ではまた