芥川賞受賞作 『時の滲む朝』

20081123-s-toki._.jpg『時の滲む朝』 楊逸(ヤン・イー) 
中国人が日本語で書いた小説、ということで話題になった作品。北京オリンピックというどんぴしゃタイミングもあり、版元文春ということもあり(言い過ぎか)、芥川賞を受賞した。
天安門事件が題材になっているという評判だったので、ロクヨン後19年を経て、中国人があの事件をどのように書いたのだろうかと興味を持って読み始めた。単行本の表紙も天安門広場で、すっごくあざとい(笑)
で、感想ですが。
よくない。
天安門事件は、私が旅を始めた直後に起きた、世界を震撼させた国家による民主化運動の武力弾圧でした。
事件の4ヵ月後に北京に行き、どうしても行きたくて天安門広場に向かい、自転車リヤカーでなら入れると言われてうかうかと乗り、ゴールの前門で警備の解放軍兵士に取り囲まれて銃つきつけられて歩道に連行されて安全装置をはずされたことのある私にとって、あの事件は未だに生々しい。北京がどう変わろうと、オリンピックが成功しようと、天安門広場に立つ人は、知っておくべきだと思う。ここで戦車が人々を殺したんだ、ということを。昔の話ではなく、つい20年ほど前に。
などと思っている私にとっては、この小説は、小道具として天安門事件を使ったにすぎない、ような気にさえさせられました。様々な意味で制約はあるだろうし、母語ではないわけですから、その分は差し引くとしても、でもやっぱり、ダメ・・・・・・。
全てがさらっと書かれていて、天安門も同じ扱いでさらっと。さらっと民主化運動に傾倒し、さらっと挫折し、さらっと日本に来て、その後の生活に至る、的な。まったく共感できず、何も伝わらない。
天安門事件も民主化運動もその挫折も、何一つ真正面からは書かれていない。これが最大の不満点。
下手でもいいし、日本語が少々おかしくてもいいのだけど、どこか一箇所でも納得させてくれる部分、ここだけは絶対に譲れない、何が何でもこれだけは受け取りやがれ! というような全力込めた部分がないと。別に熱い文章ということではなく、淡々なら淡々なりに。この人の受賞を押した人々には、それがあった、受け取れた、のだろうか。
ラストが・・・・・・。
いや、言うまい・・・・・・。
まとめ
『されどわれらが日々』の劣化版。
外国人による日本語小説のコンテストなら、最優秀賞受賞に何ら文句なし。
期待した分、辛めになりました。
★★ ふたつ
リービ英雄さん(アメリカ国籍・母語ではない日本語で創作している)はあらためてすごいと思った
ただし。
別に天安門事件にこだわらなければ、最初から最後まで、特別に腹が立つこともなく、破綻しているわけでもなく、無茶苦茶うざくもなく、読める作品ではあります。淡々としていてこれはこれでいい感じ、と思う人もあるでしょう。ただし、レベルとしては、同人誌、自費出版コースのレベルに思えますが、どうでしょう。

3件のコメント

  1. 私も少し興味がありましたが、今貴重な時間を割き読むことはやめました。だいたいが天安門の事実を事実として、それこそ真正面から書くことは、日本にいるといってもやはり命がけなのではないでしょうか。天安門事件というものを個々が関心を持つように喚起する役目を果たせばいいくらいに思っていらっしゃるのか。
    それにしても危険すぎます、銃つきつけられる経験をしている日本女性はそういないと思います…。

  2. うん、そう、命がけであり、大変な制約下であったことは事実だと思います。
    ただ、天安門事件を正面から書かなくてもいい、その時代を生きるということがどういうことであったのか、
    それだけでももう少し書き込んでくれていればなぁ・・・。
    >天安門事件というものを個々が関心を持つように喚起する役目を果たせばいいくらいに
    そんなこと思っちゃいないみたいなところもまた・・・(笑)
    いや、小説だからそれはそれで無問題なんですけどね。
    あくまで選考委員の爺ちゃんたち向けのわかりやすい書割としての時代設定、に見えてしまいました。
    1日時間が経ってもやっぱり辛口になってしまいます・・・。

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