邂逅の森

『邂逅の森』 熊谷達也
すばらしい小説でした。山本周五郎賞受賞作。
これが直木賞を取ってないのはおかしい、選考組織は目ん玉が腐ってるんじゃないかと憤慨しそうになりましたが、いま調べたら取ってました。ダブル受賞だったんですね、失礼しました。
マタギが熊と闘う話。
だと思ってました。多分、賞をとって話題になったとき、おおまかなあらすじを見聞したんでしょう。
で、それは間違いじゃないんです。
ただ、「マタギが熊と闘う話」だと思って読み進めると、見事に裏切られる。
それだけじゃないんです。
主人公だって、ずっとマタギだけやってるわけじゃない。別の職業にも就くんです。大正時代の東北地方が舞台ですが、山村の困窮ぶりも実によく物語られています。村落共同体のなかで生きていくしかないという社会の不条理も、胸に響きます。
なんと言っても、主人公が実に魅力的です。骨太の、一本筋が通ったいい男です。昔はこんな男もいっぱいいたんだろうか。(何でダメになったんだ、戦争に負けたからか?)
主人公の女房になる女も、これまたいい。それと、主人公の弟分になる男も、しょうもないやつだけどいい味出してます。
山の恐ろしさ、雪、風、寒気の非情さ。その中で狩りをするマタギの一挙手一投足。これらが実に細かに、また正確に、描写されているのにも驚きました。このリアリティは何なんだ。これを一つ一つ刻んで、積み重ねていけるこの作家はすごい。少なくともこれを書いたときには、神が宿っていたに違いありません。
★★★★★ 星5つ・文句なし
生まれ変わるならぜったい男だな

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